虫刺されやヘビにご用心!
アウトドアの季節です。慣れない方には、けがや熱中症などさまざまな危険がありますが、中でも気をつけたいものの一つに虫刺されやヘビにかまれる事故があります。「2回目にハチに刺されると死ぬ」などと、危険なことは知っていても、実際に起きたらどうしたらいいかご存知ない方が多いのではないでしょうか。

「2回目に刺されると死ぬ」って本当?どうして?

虫刺されを起こす虫には、次のようなものがいます。
刺すだけか、血を吸うもの(人里や街にむしろよくいる)
毒針やきばで刺すもの
・体の表面の毛や粉に毒があり、触っただけで発症するもの
:蚊やアブ、ノミ、ダニなど
:ハチやアリ、ムカデなど
:ガや毛虫など
 
蚊は刺すとき、血を吸いやすくするために固まりにくくなる成分を唾液といっしょに入れます。これがかゆみのもとですが、攻撃のためのものではないので、痛みはあまり生じません(吸われている途中に追い払うとかゆみが強いのは、唾液が多く残るため)。
それに対し毒針やきばで刺すものでは、毒素が体の中に残ります。一応攻撃のためのものですので強い痛みを起こしますが、人が死ぬほど強い毒ではありません。よって、一度刺されただけでは死ぬことはありません。ところが、このとき体の中に抗体ができます。これは本来、毒素などの異物(抗原)への防御(免疫)のために作られるものですが、いくつかタイプがあり、残念ながら虫の毒素に対する抗体は気管支喘息や花粉症の抗体と同じ、次に同じ毒素が体に入ってくると、短時間でアレルギー反応を起こすことがあるタイプです。  
同じアレルゲンに対して喘息や花粉症を起こす人と起こさない人がいて、程度にも差があるのと同様に、毒素へのアレルギー反応も個人差があります。よって、2回目以降も平気な人もいますが、命に関わる強い反応(アナフィラキシー)が出る人もいます。また、2回目は平気でも回を重ねると出る人もいます。

手当ての基本は、すり傷の手当てとほとんど同じ−吸引と軟膏が違うだけ

毒針やきばで刺したり、触っただけで発症する「毒を持つ虫」に刺され(触れ)た痛みやかゆみは、たとえ初めてでも相当なものです。そこで野山にお出かけの前に、ぜひ応急処置の方法を心に留めておきましょう。

「危なげな虫」に刺され(触れ)たときの応急処置の基本は、大抵の虫で共通しています。  
  1. 毒毛や毒針、きばなどが残っていたら取り除く。   
  2. 患部をよく洗う。毒針やきばで刺された場合は毒素を吸引(しぼり出)し、再度洗う。   
  3. 軟膏を塗り、場合によってはガーゼでおおい、様子を見る。

ここで、かすり傷や切り傷、とげが刺さったときなどの応急処置を思い出してください。   

  @傷口にとげや異物があれば取り除く。   
  A傷口をよく洗い、消毒液があれば消毒する。   
  B化膿止めの軟膏を塗り、場合によってはガーゼや絆創膏でおおい、様子を見る。

消毒をするか吸引をするかと、軟膏の種類が違うぐらいで、ほぼ同じですね。

ただし虫刺されの場合は、注意点がいくつかあります

虫による細かい違いは表1に示した通りですが、まず、毒針やきば、毒毛などにじかに触れてはいけません。毒針やきばは毛抜き(とげ抜き)で、毒毛はテープ類(包帯用テープの他、セロテープやガムテープでもOK)で取り除きます。特に触っただけで発症するものの場合は、この後残った毒毛や粉を洗い落とすまでは決して患部に触れてはいけません。  
次に、洗浄や吸引(しぼり出し)で毒素を取り除きます。基本はきれいな流水で洗うこと。石鹸水で洗ったあとすすぐことができれば理想的で、毛虫の残った毒毛もよく落とせます。ガの羽の粉は、そのままでは流れにくいので石鹸の泡で浮かせて流します。  
毒素の吸引には、毒を吸引する器具を使うのが一番安全ですが、なければ水を流しながら指先で刺口から押し出すとよいでしょう。「口で吸うとよい」といいますが、口の中の傷から毒が入るおそれがあるので、避けたほうが無難です。  
次にお話する軟膏を塗り、治るまでの間は患部を掻かないように注意します。かゆみが強くてつい掻いてしまいそうなときは、患部をガーゼや清潔な布でおおい、包帯やテープで止めるとよいでしょう(ガーゼと軟膏は毎日変えて様子を見ます)。腫れや発赤が激しいときやかゆみがひどいときには、水で湿布したり、内服用の抗ヒスタミン剤を使い、とにかく掻くことを避けます。  
そして、何より重要なことですが、アナフィラキシーに素早く対応するため、患部の皮膚以外の症状(特に・息苦しい・吐き気・じんましん・顔色が悪い・脈拍が弱い・血圧が急に下がる・失神・呼吸困難)が少しでも出たらすぐに病院へ駆け込みましょう。
虫別の細かい違いは表1をどうぞ

軟膏は、様子をよく見ながら−毛虫やガには抗生物質も必要

野山の虫刺されの応急処置に使う軟膏はステロイド系です。アレルギーや炎症を強力に抑える一方で、様々な弱点があります。そのため、アトピー性皮膚炎などの長くかかる治療に使うのを嫌う方がかなりいます。しかし毒を持つ虫による症状は一時的かつ強烈なため、あえて使います。  
ステロイド系の軟膏は、強さや混ぜてあるものがいろいろですが、市販の(=医師の処方がなくても買える)ものの多くは、中等度のステロイドだけ、または弱め〜中等度のステロイドに抗ヒスタミン剤や引きしめ成分を混ぜ、かゆみ止め効果を強化してあるものです。毒針で刺すタイプの虫にやられた場合は、抗ヒスタミン剤入りのステロイド系の軟膏がよいでしょう(薬局で「ハチに刺されたら塗る軟膏」と言えば、出してくれます)。  
しかし、ステロイドは免疫そのものを抑えることでアレルギーを抑えるため、感染症に対する抵抗力を弱めます。触っただけで発症する虫にやられた場合や、水ぶくれのある時、掻き破ってしまった時などは、皮膚の表面の傷ついた面積が広いため細菌に感染しやすくなります。このような状況では抗生物質(≒化膿止め)をあわせて使う必要があります。抗生物質入りのステロイド系の軟膏を塗るのがベストですが、ない場合はハチ刺され用の軟膏に、すり傷などに使う抗生物質だけの軟膏をその場で混ぜて*塗るのも手です。
(それでも、まれにその抗生物質に耐性のある菌がついて、化膿したりとびひになることもあるので注意が必要です)  
他に、ステロイドには長く使い続けると皮膚が弱くなる、紫外線に敏感になりシミができやすくなるなどの副作用や、効きが悪くなるなどの弱点もあります(ここがステロイドが嫌われる最大の理由)。市販の虫刺されやかゆみ止めの薬には、抗ヒスタミン剤や引きしめ成分だけのものもかなりありますので、家にいてもよく蚊にさされる方は、日頃は主にこちらを使いましょう。いずれにせよ毎日様子を見て、ステロイド系を塗って少しでも悪化するならすぐに、また3日経っても効かないようならやめて、皮膚科に相談しましょう。

*薬剤師の資格のない人が、複数の軟膏を混ぜたものを容器などに保存するのはやめましょう。薬が変質したり、雑菌が入ったりして塗るとかえって有害な薬になってしまうことがあります。混ぜるときは必ず塗る直前に、清潔なガーゼや手指に取ってさっとまぜます。

毒を持つ虫に刺されたり、皮膚に傷のあるときはクリームではなく軟膏

 軟膏とクリーム、一見よく似ていますが、実は違いがあります。  
軟膏とは、パラフィン(ろう)やワセリンなどの油脂に薬の有効成分を混ぜ込んだもの。これに対しクリームとは、「乳化剤」を添加してこれらの油脂に水分を溶かし合わせたものがベースです(医薬品と化粧品のクリームは、有効成分の濃度が違うだけでベースは同じ。また、乳液はクリームと油脂と水分の比率が逆)。水分と乳化剤のおかげで軟膏と違い伸びがよく、塗るとすりこまれるため、べとつかずつけ心地がよい、また薬の有効成分を組織に吸収させる効率が軟膏の10倍も高い、といった長所があります。
しかし、逆に毒素が残っていたり、化膿しているところにクリームを塗ると、有害なものまで組織に吸収させる力も10倍です。また、乳化剤は石鹸や洗剤と同じ界面活性剤の仲間です。だから水と油を溶け合わせることができるのですが、大きな刺し口やすり傷など、皮膚に傷があるところに使用すると、しみて痛んだり、治りが遅くなるおそれがあります。  
他に市販の「かゆみ止め」には、液状ゲル(ゼリー)状のもの、スプレーなどもありますが、これらは水やアルコールがベースで、乳化剤も入っているものもあります。揮発しやすく、患部を冷やして炎症を鎮める効果がありますが、やはり刺激が強いこともあります。  
その点軟膏は刺激が少なく、揮発しにくく塗ったところに残るので、刺し口があっても油脂の膜を作って傷を保護します。ですから、蚊などの日常的な虫さされにはクリームやゲルでもOKですが、毒を持つ虫に刺されたり、皮膚に傷のあるときには軟膏を。

「アンモニア」ってどうなの?

「虫刺されにはアンモニア水をかけろ」なんて聞いたことのある方は多いでしょう。アンモニアの水溶液は強いアルカリ性です。そこで虫の毒に含まれる酸を中和したり、タンパク質でできた毒の成分を溶かす..というのが、「虫刺されにアンモニア」説の言い分です。  
でも、実際には虫の毒には他にもいろいろな成分が混じっているので、これだけではあまり効きません。それに、皮膚もタンパク質でできていますので、やはりアンモニアに弱いのです。傷口があるときや、何度も塗り続けたとき、薄め方を間違えたときなどに、ただれるおそれもあります。ハチの場合は毒もほぼ中性で刺し口が大きいので、効果がないばかりか、かえって危険です。  
虫刺されの薬のロングセラーの一つに薄めたアンモニア水が主成分のものがありますが、使いすぎには重々注意しましょう。

毒ヘビに咬まれた場合は初めてでも命に関わることがある

 マムシ、ヤマカガシ、ウミヘビ、ハブなどの毒ヘビの毒はハチなどとは違い、初めてでも麻痺を起こしたり、筋肉やかまれた部分の細胞、毛細血管などを溶かしたりします。数時間以上すると全身で血が止まりにくくなったり、呼吸障害が起こることも。よって、毒のまわりを遅くすることが重要です。  
焦ると脈拍が早まり、毒のまわりが早くなりますから、落ち着くよう本人に言い聞かせましょう。日本のヘビの毒は比較的まわりが遅く、手足を咬まれたのなら数時間経ってもウミヘビ以外なら死ぬことはありません。それでもできるだけ早い医療処置が必要。すぐに他のメンバーに車で救急病院に連れて行ってもらうか、無理なら救急隊を呼びます。そして病院につく(救急隊が来る)までの間は、咬まれた部分が心臓より低くなる姿勢にし、本人をできるだけ動かさないようにします。傷口より10〜20cm程度心臓に近い部分を、少し血管が浮き出る程度に軽く縛ります。そして傷口を流水で洗い、器具で毒素を吸引します。口の吸引は極力避けますが、器具もなく、医療機関に着くまでに数時間以上かかりそうな場合や、本人が子供の場合はやむをえません。毒を吸ったらすぐに吐き出してうがいします。口の中に傷や虫歯や歯槽膿漏がある人は×。いかに危険かわかりますね。こんなときのためにも、毒ヘビが出る可能性がある場所に行くときは毒を吸引する器具を用意しましょう(沖縄や奄美大島では暮らしの必需品だそうです)。  
病院についたらヘビの種類に合わせた抗血清(治療用の抗体)を注射しますので、それまではどんなヘビにかまれたかわかるよう、患部を切ったりしないこと。  
あと、ヘビの場合はかまれた部分を冷やしてはいけません。細胞や毛細血管を溶かすのが進んでしまうからです。

以上より、レジャーの際に持って行くべきもの

(表2)

虫やヘビにやられないようにするには−虫よけスプレーはハチには効きません−

でも何より、刺されたりかまれたりしないのが一番です。虫よけ・ヘビよけのポイントをご紹介します。  
  • 虫よけスプレーは、血を吸う虫がヒトやペットから出る二酸化炭素を感知して寄ってくる感覚を鈍らせるもの。よって蚊やアブには効きますが、ハチや毛虫には効きません。
  • 当たり前ですが、ハチの巣やヘビに近づいてはいけません。半径1m以内には近寄らないことです。見つけたら静かに(!)速やかにその場から立ち去りましょう。特にスズメバチの巣の近くで「カチッカチッ」という音がしたら「これ以上近づくと攻撃する」という威嚇です!
  • 毒ヘビもハチの巣も、茂みややぶ、草むらなどに多いもの。できるだけこういう場所は避けて歩きます。ヘビは前方の草むらを棒などでガサガサ叩きながら歩くと驚いて逃げるといいますが、間違えてヘビやハチの巣をもろに叩いてしまう可能性もありますので、注意が必要です。
  • 大きな石や倒木の陰、穴の中などもヘビが好んで隠れる場所です。確認しないで手を突っ込まないようにし、腰掛けるときは周囲をよく確認すること。
  • 服装は長袖に、丈夫な生地の長ズボン。足首が出ないようにし、特にハブのいる南の島ではゴム長靴を。ヘビはタバコなどのニコチンが嫌いなので、ニコチン液をズボンの裾にしみこませるのも手です。
  • ハチは黒、アブは黄色に引寄せられやすいので、これらの色の無地はもちろん模様入りの服も避けましょう。ハチ模様(黒黄しま)は特に危険です(冗談みたいですが、本当です)。
  • 黒・黄以外の色の帽子もかぶります。ハチは黒い髪にも反応しますので、ロングのあなたは帽子の中におさめましょう。
  • ハチはゆれるもの、光るものにも反応しますので、アクセサリーは避け、不必要な飾りがない服装で。タオルをぶら下げるのも避けましょう。旗やのぼりは避け、ハチの巣の近くでは懐中電灯は消すこと。ヘビも夜行性で、えさ探しに民家の庭にまで出てくることも考えると、夜中に茂みのある場所を歩き回ること自体避けたほうが無難(秋吉台で肝試しは危険かも)。
  • 虫は甘い匂いに引き寄せられます。整髪料や制汗剤などは無香性のものを使いましょう。飴やガムを口に入れたまま活動するのも×。ジュースや甘いものを食べた残骸はむき出しのまま放置したり持ち歩いたりせず、ゴミ袋に入れてしっかり口をしばります。
  • ハチが体に止まったり、周りを飛び回っている時も、手で払ったり大声を出すのは×。慌てずじっとして、飛び去るのを待ちましょう。